
(12)写真〔5〕は殷の甲骨文第一期BC1300年頃と書かれておりますから、帝・盤庚・武丁の殷王朝最盛期とみることが出来ますが、内容は@BCのどれも、王が苦しんだとか、王子が車から堕ちたとか、死んだとか、余り名誉なことではない、正直なことが記録されています。この最も保存状態の良い牛の肩胛骨文が今どこに展示されているのか、知りたいものです。
文章は簡潔で彫りは姿よく感心させられます。左1/3太く白黒鮮明な部分@から読んでみることにします。

実際にはこの時王は猪を夢に見た訳ではなく、病で寝汗をかきウナサレたのでしょう。
テイという字は写真甲骨文の中央Cにも右側Bの文中にもあります。殷は狩猟農工の民族で、猪は狩りの対称ではあっても猛進してくる夢にまで見る危険な存在であったのでしょう。従って、寝汗をかき、ウナサレルことをここでも一般的な、![]()
テイ頭の大きなイノシシの字に仮託されたのでありましょう。
この時代から夢は不吉なものとして捉えられています。夢という字は巫女の呪詛がエクスタシーに達した朦朧とした状態の目と、足もとの不安定な状態をよくものが見えない夕方の月の会意文字です。巫女は古代では王権と直結する非常な魔力を持って怖れられ、信じられ、逆に敵方の巫女は殺害の対象でした。巫女は美しくも怪しく不気味な存在であったに違いありません。ですから本来夢は人々が眠っている間に入り込む魔性の文字です。それがいつしか現在では美しいシンデレラか星の王子さまの夢物語、明るい希望の星のような感覚で捉えられるようになりました。
いまは夢と希望と志、夢と理想がゴッチャになっております。夢は子供の頃にみるものであり、夢を持たせ、夢を語るのは小学生、児童の時であります。中学生ではその夢を志に変え、高校、大学生では使命感に、計画性のあるものに語り変え、話しかけてゆくべきでありましょう。
大人がとりとめもない、夢のようなことを誰かれなく語っていては社会は混乱するばかりです。時には詐欺まがいの商法にもなりかねません。又、かつてある寺の住職が無闇に「夢」という字を揮亳されていたのには違和感を感じていました。住職はあってはならない地獄の苦しみを現実にかえて説き、天上の世界を夢ではなく、実現可能な宗教の理想の世界として、凡人に先んじて熱く語るべきであると思うところであります。
しかし、わが書展でも女性はややもすると夢という字を作品にされますので余り大きな声では言えません。現在女性の一番好きな文字はアンケートでも夢が一番でもあります。
時の王、盤庚・武丁いづれかは知りませんが、王はどのような夢を見られたのでしょう。古代人が見る夢はどのようなものか、勺シャッキスとありますから、胃の痛みかセキ込む胸の病があったのでしょう。身内の権力闘争かもしれず、苦しみ、魔物に追われて必死であったに違いありません。巫女は又、夢中で祈ったことでしょう。王とは何時の世でも孤独な存在であります。もしこの時、庶民のユメが記録されたなら、妻や子に見守られてもう少し優しく美しい異なった文字になったのであろうと思うところです。悲しいことに文字は権力と両輪でカタチづくられてきました。もともと文字と書は呪符で、権力者はこれを利用しました。『文字現われて鬼すすり泣く』とは民タミの目に映った文明で、儒教は封建制に、法家の説は富国強兵に利用され、それは列子のなかにある静かで諦めに似た冷たくつき放された言葉です。文字をひけらかしてはならない、そう思うこの頃です。

人の前に立ちはだかること。見えないようにする、亡き者にする形。
布から首を出した大きな頭の形、頭の大きなイノシシのこと。猛進してくる危険なヤツ、転じて、ワザワイ

は羊の赤くうるんだ目。夢は巫女が逆さまつげ(眉飾り)をして祈るうつろな目と月の明りのよく見えない足もとの不安定な状態。
ショウヘンで、夜に入り込んでくる不吉なもの。(夢兆)

は杓の形、勺。![]()
キはつまさき立つ。勺
シャッキス、癪を起してつまさき立って苦しむ。芍薬は中国北部原産の薬草。根を煎じてセキ止めの薬とする
川をセキ止めたサクのような形。ミオツクシの形にも似ています。

往の彳は十字路を描いた象形文字
はその片側。
ズバリ割リ切ラズ
間をおいてつなげる気持。
耳たぶのようにぐにゃりと曲がったさまを示す指示文字。
小さい芽がどんどん並んで生じるさまを示す。
おおいをした穴を描いた象形文字。
陰を代表する数
カンガエル
つきつめてカンガエル
大人では用いない
一
月

大きな頭のイノシシ。
ワザワイ
カクノゴトク
巫女が身振り手ぶりで説明するさま。
若の口は巫呪のコトバ書きを入れるウツワ
サイ
揚ぐるなり。
イワク、イウ、ノベル
イノシシ+
足
ツツクようにしてオウ
口+十 あわせる
叶は協の異体字。
協力する。
阜が
バラバラの石になった形と我。
峨に傾たむきけわしい意がある。
大の字に立った人間の真ん中。
人間の頭の真ん中を押し上げた姿。
人が大の字になり、そのわきの下に手を入れて支える形。
フタタビ、マタ

(13)スルメ形肩胛骨の左@は王が祖先を祀りしている時に癪を起して苦しんだ記録でした。左のBは、王子の攷は思慮深い子であったが、不幸にも死んでしまった。中央Cは、王子の央は元気な子で狩りを手伝っていたが、馬車から落ちたと王家の受難の記録です。Cは中国史上最初の車事故の記録かもしれません。
戦車のこの甲骨文字は書展でよく見かけられます。
ところで、問題は次のA左下三行に彫られた九文字です。
通読します。
己
ツチノトウニ媚ビス子寅シエン羌十キヨウ10ヲ
坑
コウニ入ル(坑殺シタ)
己卯ツチノトウに王子の寅エンは羌族の捕虜10人を殺害、
坑に埋めた。犠牲イケニエとし、祖霊に盟誓の呪詛をした。
ということでしょう。
媚ビは巫女の呪詛のことであり、
坑殺は多くの肉の塊り、死体が坑に横たわっている状態です。殷墟に羌人の首のない遺骸が多数発見されるのはこのことだと思われます。一坑10体づつ1400坑、概算して1万4000体が発掘されています。恐ろしいほどの大変な数です。
殷の民ははじめ繭蚕ケンサンを祀る素朴な自然信仰の集団でした。それが、夏の桀王を倒し、王国となるに至って先王の霊が崇められ、神となり、武丁の時代には祟りの力を信じる祖霊観をもった亀卜キボクが多く見られます。神事は権力と結びついて、ひとたび病膏盲ヤマイコウコウに入ると神は何時の世でも恐ろしい存在となります。3300年前の一個の骨片が語りかけるものは誰にでもある病の苦しみ、子供への愛が悲しみへとかわるとき、敵対する者への怒り、猜疑心となり、いわれなき殺害となる冷酷な現実であります。
@で中丁を嬪し、勺シャッキした王が、自分を苦しめるものは何者か。人は体調の悪い時に多く夢を見ます。夢とはうらみうるんだ目の魔性の女が眠っているあいだに体内に入り込む呪詛でありました。夢兆ありと不吉を予感した王は何者かの呪いが己れの身にふりかかっていると身震いして覚ります。王はその消滅と復讐を神に誓ったにちがいありません。
そうです、慰霊にことよせて神に不戦の誓いをする人は立場が変われば必ず、戦勝を誓い、祈願しかねない人だと私はにらんでいます。不戦の誓いなどは己れの胸にすればよい、神に生身ナマミの人間が誓詞をのべるなど鳥滸がましいことであります。それが権力者なら尚更のことであります。それは人々を巻き込み傲慢で恐ろしいことだと思うからであります。
神がかりの殷王は羌を攻め、ことごとくこれを敵視し、奴隷とし殺害しました。
そしてBC1066年いためられた羌は周に加勢し、手引きして、逆に殷は周と羌の連合軍によって亡ぼされてしまいます。殷が亡び、殷の民が亡国の流民となったことは前に述べました。勿論、羌も辺境に追われ、今わずかに四川省の奥地に消息を保っています。
「羌10ヲ坑ニ入ル」この4字句が意味するところは他民族を理解しない民族は自らもまた国を亡ぼす結果となりかねない!!何か米国とアフガン、イラクの人々を思いうかべ、そのゆく末を案じてしまいます。早からん平和を祈るばかりです。
次に、写真〔5〕のDは缺落が多いので意味がよみとれませんが、偏見を省みず読み下してこのスルメ形甲骨片の終りとします。
貞キク旬ニ(ワザワイ)亡キカ 八日(王カエリ)来タリ嬉ヨロコブ
キは喜の吉+ダイでごちそうを盛ったかたち、そのそばに女性がひざまづいたさまで、女性と楽しみ、
は女性がにぎやかに喜び笑う意を表します。
凱旋の祝いをしたということにしましょうか。


このスルメ形甲骨文は文字を朱で埋めたあとがあります。磨かれて大切に保管されていたのでありましょう。現在までに発掘された甲骨片は10万片、約3000字が認められ、その半数以上が解読されています。
甲骨文コーナーを書くに当って
本題が三千年以上も前の超古代史なので、いきをい想像と独断は枚挙にいとまがなく、間違いは御指摘いただいて、次の機会にお詫びと訂正をするつもりです。
又、受売りや引き写しのお叱りは当然であります。原著者にはまことに失礼ではありますが、自分なりに咀嚼したつもりでも、専門の解説は原著に勝るものはなく、一書道教室の勉強会のこと、生涯学習書友の為に御寛怒賜りたい。又、教えていただき、参考にさせていただいた書籍並著者名の記載も、いたずらに会の名を重からしむるを怖れ次の次の回にさせていただく次第です。
書友のために。
日本習字 福田教室綾香会 社中
T.TARUMI
書作のために
甲骨文・金文関係の本いろいろ捜して用意いたしました。
(イ)図解甲骨文の書き方 二瀬西恵著 木耳社 \1,800
(ロ)古代文字墨場必携 木耳社編集部編 \1,800
(ハ)中国法書選・1 甲骨文・金文 二玄社 \1,600
16.10.29
さいたま市 墨點社 鈴木不倒






器に肉を盛って奉る。何らかの意思が有ることを示す。
ナ
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