大阪市 松本義和


2004年9月17日午後8時、ギリシャのアテネでパラリンピックの開会式がおこなわれ、日本選手団280人の先頭で日の丸の旗を持って歩く。
4年前の2000年、シドニーパラリンピック柔道100kg級に38歳で初めて出場し、銅メダルを獲得した。
体力の限界も感じていたので、結果はともあれ、この大会で引退しようと決めていた。
しかし、普段ほとんど接することのない他の障害の選手達や世界のアスリート達との交流、そして大会そのものの魅力もあって、シドニーから帰国途中の機内で、「もう一度パラリンピックに出てみたい」と思うようになった。
帰国後はまた練習とトレーニングをする日々となった。
4年の月日がたち夢がかない、そして旗手まで任され、アテネパラリンピックの開会式を日本選手団の先頭で歩く事ができた。
アテネでも柔道100kg級で出場したが、1回戦敗退。そして敗者復活戦でも負けた。
シドニーが終わってからの4年間は、これまでになく練習を重ねてきた。それまであった怪我も治し、そして体調も万全だった。
たとえ1回戦の相手が、シドニーの金メダリストとはいえ、自分では勝てると思ってた。また勝つつもりだった。
しかし、残り時間15秒で指導を取られ、その僅差で負けた。
勝負はともあれ、自分の全てを出した試合、結果には不満はない。
そして、またもや多くの選手達との交わり。やはりパラリンピックは魅力あふれる大会だった。
今はパラリンピックに三度出てみたいと思う気持ちで練習する日々。
もしもペキンに選ばれるなら、その時は46歳。
体力の限界にチャレンジしつつ、夢を追いかける日々である。

高校在学中、突発性緑内障で視力が低下し始め、20歳で両眼とも失明した。
当時は生きてるのもいやになった。
そしてすぐに鍼・灸・マッサージの資格を取るため、大阪府立盲学校へ通うようになる。
入学と共に「体を鍛えたい」と言う気持ちで柔道部に入り稽古を始めた。
当時63kgしかなかった体重が、シドニーパラリンピックに出場した時は100kgになった。
成人になってからの柔道は体の固さや動きの堅さでどうしてもハンディを感じる。
まして全盲になってからの柔道、「見て覚える」事ができないのはやはり辛い。
しかし、周りの人のアドバイスや繰り返し練習することにより、技術や技を鍛える事ができるようになった。
やはり継続は力なりである。

現在、週2回、大阪府立体育館の養生会で稽古している。それと週1回、長居障害者スポーツセンターでは、自分が中心となり、後輩を指導しつつ稽古している。稽古に行かない日はウエイトトレーニングをする。
昨年11月、東京の講道館で行われた全日本視覚障害者柔道大会で4回目の優勝をした。
その結果、2006年6月にフランスで行われる世界選手権の代表に選ばれた。
今はそれに向けての練習する日々。
また世界の選手達と試合をし、そして交流するのが楽しみだ。
柔道と出会って、そして限界にチャレンジする今、生きてる事、そして体を動かせる事に幸せを感じる。
今日もまた稽古に行こう。
大阪市住吉区在住 44歳。


補 筆修道館理事 垂水 恒夫

 松本君は天下茶屋の自分の診療所から南海電車に乗り、難波駅で降りてナンバパークスの前を通り、信号や放置自転車・置き看板・行き交う雑踏の中を抜け、大阪府立体育会館地下二階の柔道場へPM6時半に着いて2時間練習します。
そして9時、再び地下鉄難波駅から長居の自宅へ一人で帰ります。
途中、階段が上下何回もありながら手摺も持たず、折り返しもたまに壁にぶち当たる程度で何が目印なのか、クルリと反転してスタスタと降りて行きます。彼の場合、駅員も特に気にしていないようです。

乱取り練習では襟を持ち互うところから始めますが、あとは健常者と何ら変わるところはありません。

2五分間の乱取りが終わったあとも最初の自分の位置にちゃんと戻ります。左右を間違えることもまずありません。

3トイレへも自分で行き、練習中一度も道場の板壁にぶつかった事もありません。ある時、真っ暗なトイレで何か物音がするので電気をつけると彼でした。びっくりしましたが、考えてみると当然のことであります。

4東京での試合へも自分一人出かけます。沖縄の小学校での講演にも行きました。

5ただ、修道館のような道場へは、行きたいのだけれども苦手ということでした。行く道にゆるやかなカーブが多く方向をとりにくいこと、道場に窓が多く、剣道と隣り合わせなので音の反響がとりにくそうです。

 彼を通じて私達も随分学ぶことがありました。ちなみにこの寄稿の原稿は音声を文字に変換する音声認識ソフトを使うそうですが、彼が自分で打ったもので修正も校正もしておりません。
 彼の気力と情熱、そしてその向上心からは、何事も『成せば成る』の人間の生き方を力強く教えられるのです。

大阪の柔道・第29号(平成18年3月31日発行・非売品)
大阪府柔道連盟発行より抜粋


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